手動機の時代 写研 PAVO-8
写植機をご存知でしょうか。一昔前までは普通に使われていた機械で、文字盤を光で読み取って印画紙に焼き付け、印刷用の原板を作る装置です。一種のタイプライターです。下のガラス板に文字が並んでいて、右のレバーを押すと一文字ずつ読み取り印画紙に焼き付けていきます。また、レンズを変えることによって大きさを変えたり斜め文字にしたりすることができます。
文字盤の文字の並びはある法則で並んでいるのですが、これを覚えるのが大変でした。日本語には漢字が非常にたくさんあるため、メインプレートと呼ばれる標準文字が収められた大きな文字盤の他に、サブプレートが何枚も必要でした。その他英数字や記号類などがあり、一文字探すのにメインプレートをうろうろ、サブプレートを一枚ずつ確認するなどしていると、時間がかかり生産性も上がらないので皆必死でその位置を覚えたそうです。
写植機メーカーには写研とモリサワ、リョービというメーカーがありました。写研は一番古く大きな会社でした。この写真の機械は写研のPAVO-8です。PAVO型の廉価版機種ですがそれでも1975年で230万円したそうです。
レンズを換えたり文字送りを決める装置は機械式でした。安くて使いやすかったみたいですが、機械式なので細かい調整などがしにくく、オペレーターさんの負担は大きかったみたいです。
それでもこの前の機種SPICAと比べると複雑な組版もでき、画期的な機種だったみたいです。なおこの230万円は本体代のみで、文字盤は別売です。大きさは本体のレンズを変える事で変更できますが書体、例えば明朝とゴシック、丸文字など、しかも太い細いによってそれぞれの文字盤が必要です。
それに記号類が入った文字盤、英数字の文字盤も書体によってあれこれと必要で、普通に仕事として使えるような1セットをそろえると最低でも500万円以上かかりました。ちなみに写研では機械を買った人しか文字盤は売ってくれなかったそうです。しかも1台につき1書体ごとに1セットしか売ってくれなくて、割れたり傷が入ったりした時はその現物と交換でなければダメだったそうです。
この写真のPAVO-8ですが父がいろいろと改造しているみたいです。上にルーペとスイッチが付いてます。このルーペの箇所は文字を確認するところです。例えば渡辺などの異体字が間違っていないかとか大きさや斜体の確認などをするときに黒いレバーを操作してルーペの所に映し出されます。
その確認が終わるとレバーを元に戻して印字するのですが、この元に戻すのを忘れると印字されません。全部打ってから気が付くとえらいこっちゃです。そこでスイッチを付けてレバーを操作中は左下のランプが着いて元に戻すと消えるようにしたみたいです。後の機種にはこのようなフェイルセーフ機能が付いたみたいです。ちなみに、このルーペも自分で接着したみたいです。
まあ便利にはなりますが高価の機械でも父の手にかかればあっという間に改造されておもちゃになってしまうのでした。