手動写植機の時代 写研 PAVO-JP
PAVO-JPは値段の割に使いやすかったのかうちには二台ありました。電子回路を使った制御から8ビットマイコンとプログラムを使った制御に置き換えられたので複雑な組版でも手軽に出来るようになったみたいです。
1/32em送りとは?
「1/32em送り」が目玉の機能で、これは全角文字の1/32単位で文字を送る事が出来る機能です。全角文字とは正方形の漢字の事です。本当だったら1文字打つとこの正方形分の幅で移動させて次の文字を打ちますが、書体によっては文字と文字の間があきすぎるように見えるので少し詰めて送ることがありました。
例えば大きな文字のタイトルとか、小説や長文では見やすさとスペース確保の意味でほんの少し詰める事もあったみたいです。
大きさに合わせて相対値移動
今まででしたら1Hずつ絶対値で移動させましたが、このPAVO-JPから文字の大きさに合わせて自動的に送りを変えてくれる相対値移動になりました。つまり大きさに合わせていちいち送りを計算して変えていたのが、大きさ(Q数)と1/32単位の数値を設定すれば本体が計算してくれて手軽に詰め送りが出来る様になりました。間違えが無くなり非常に便利になったのです。
細かい調整
この「1/32em送り」機能を使って英数字やひらがなも文字によって細かく調整できるようになったのです。例えばI(アイ)とM(エム)みたいに本当だったら幅が違うのに全角文字だったら無理やり同じ幅にしていると見た目が悪いので、それぞれの幅に合わせた英数字を使うことが必要でした。しかし今まででしたら1文字打つたびに、これはMだからたくさん文字送りをしてIだから少なくしてとか、文字の大きさが12Qだから8H送って20Qだったら16H送ってとか一つ一つ考えながら打たなければならなかったのです。
英数字の混植も楽々
だから英文の組版や英数字の多い組版は時間がかかるので単価は高くなりますが嫌がる人が多かったみたいです。それをこのPAVO-JPからは専用の文字盤を使えば自動的にこの機械が計算して美しい組版が手軽にできるようになったのです。ちなみに1Q=一辺0.25mmの文字、1H=0.25mmになります。
機械式英数字組版
父はこの英数字を自動的に調整する装置を写研より先に開発していました。SPICA-AやPAVO-8は機械式に歯送りをしてましたので調整がしやすかったのでしょう。各英数字文字の幅に合わせた突起物を字送りするレバーの干渉する位置に置いて、レバーが最後まで下がらないようにするのです。そうすると機械式なので途中で文字送りを止めてしまい素早く英文が打てるようになったそうです。
ハラハラする母
この装置を作るきっかけは、ある時、単価の高い英文の仕事をもらってきたのは良いけど納期が短かかったそうです。母はこれは手間がかかるので早く手を付けて遅くまで仕事をしなければならないなと思ったそうです。
ところが父はいつまでたっても手を付けずに機械の調整やらなんやらしてたそうです。イライラして父に詰め寄っても大丈夫だと相手にしなかったそうです。
そして納期直前に手をつけたかと思うと、この開発した機能を使ってたった1日できれいに仕上げたそうです。母は納期いっぱいはかかると思ったのが、あっという間にできたのでびっくりしたそうです。
お金儲けは二の次
それから割の良い英文の仕事も簡単にできるようになったので儲かったそうですが、ある日写研の営業の人にこの装置を見せて自慢したところ、すぐに写研がその機能を手直しして販売したそうです。その営業の人はだいぶ褒められたらしいです。母は、だから人に言うたらあかんと言ったのにと怒ったそうです。
父はやはり金儲けには縁のない人みたいです。
ディスカッション
コメント一覧
写植機の話、昔の印刷会社の時代の話が、懐かしく想像できます。この親父様の回想録が完結した暁には、自費出版されたら良いでしょうね。君に文才があるとは、知りませんでした。失礼しました。
コメントありがとうございます。どこかの出版社から連絡がないですかねぇ。笑