モリサワ ROBO-X その1
写植機のデジタル化
写植機の世界にも電子化、デジタル化の波が襲ってきました。まずは位置制御、割付計算でした。割付計算とは、文字の大きさと文字の入るスペースを計算して何文字入るか、行間はどれくらいの広さにすれば良いかなどを最初に設定しておけば自動的に文字送りや行送りをしてくれるようになったのです。しかも性能の良いパルスモータを採用することにより1/32mmという今までよりも8倍の精度で細かく制御できるようになりました。また英数字の送りも細かく自動的に制御できるようにしたり、斜体や変形文字でも自動に送りなどを計算してきたりと、だんだん性能の良い制御もできるようになっていきました。
ワープロはライバル?連携相手?
次に考えられた事はワープロ、パソコンとの融合でした。ワープロやパソコンの方が自動的に漢字を変換してくれるので文字盤の位置を覚える必要もありません。だから誰でも簡単に文字を入れる事、文章の作成が出来ました。しかもデータを保存しておけば何度でも使いまわしができるのです。そこで作られたのが文字盤を自動的に動かして打ち出すロボットです。これを早期に開発してたのがモリサワだったみたいで、父が印刷機の展示会で見て導入を決めたそうです。
ロボットで無人化をめざせ
この機械だと人がパソコンなどで文字を入力し、割付の命令を入れておけば寝てる間にかってに文字盤を動かして打ってくれる。これで生産性は二倍にも三倍にも出来ると父は大絶賛してましたが、私も母も懐疑的でした。まず、誰が入力するのか、そのスピードはどれくらいなのか、夜の間にしてくれると言うが印画紙を換えたり文字盤を交換したりするのに誰かがついていなければならないのではないか、これだと生産性はそんなに上がらないのではないか等です。それでも父はそれらの反対を押し切って導入を決めました。
思った通りになかなか出来ない
確かに文字の入力データさえあれば採字はロボットがしてくれますので早いです。しかし文字があってもそれだけでは印刷用の原板、版下は出来ません。大きさ、書体、行間、文字が入るスペースなどの命令を入れなければなりません。それが小説や論文などの単純なものであれば簡単ですが、パンフレットやガイドブック、取扱説明書などであれば命令も複雑になってきます。また、色々な書体が混じっているとそのたびに文字盤の交換も必要です。印字は早いので印画紙の交換もひんぱんにありました。そして最大の問題は日本語用のシステムだったので、うちの仕事の大部分を占める中国語がそのままでは出てこないことでした。
工夫が好きな父がとった方法
そこで父が考えたのは日本語の文字コードを中国語の文字コードに変換させる事でした。詳しいことは省きますが、中国語ワープロで作ったデータを日本語ワープロに取り込み、そこに命令を入れて打ち出すというのです。そのためには文字盤の文字の位置を日本語コードと中国語コードで合わせなければなりません。
父はそれを一つ一つ人手で合わせていきました。文字盤の文字は文字コード順には並んでいません。写植の文字盤の基本、一寸の幅順です。また日本語と中国語では同じ漢字でも位置が違うのです。それを一つ一つ合わせていくのに一年かかりました。
(つづく)